【Annexe Café】 雪夜の約束
 

Annexe Café

□ 短編 □

雪夜の約束

(どうして、こんな……)
 弱々しい行燈の光の中、朧に日本は思った。
 敗戦を乗り越え、漸く復興の足音が聞こえ始めて気持ちに少し余裕が出来たのか、アメリカと一緒に雪が見たくなった。それだけなのに、自宅の玄関を入るや否や、すぐさま腰を引き寄せられて口唇を奪われた。そのまま、寝室へ運ばれ……そこから先は良く覚えてなかった。ただ、強い力で布団の上に組み敷かれ、性急に開かれた身体を一気に最奥まで貫かれた。心の中でまた同じ言葉を繰り返す。どうして……
「あ、ああっ……!」
 突然、グッと腰を掴まれ、いきなり日本は抱き起こされた。アメリカの膝に乗せられて自重で更に結合が深まり、痛みにも似た快感に背が大きくしなる。
「こんなときに、何を……っ……考えて、るんだい?」
 静かな怒りと欲を滲ませた声が熱い吐息と共に耳の奥に注がれた。瞬間、肌がざわりと粟立ち、日本は必死に右腕を伸ばしてアメリカの首にしがみついた。
「ア、メッ……」
「まだ足りない? なら、もっと激しくしようか?」
「やっ……!」
 小さく首を振って日本は左手でアメリカの胸を軽く押しやった。
 化身の驚異的な回復力で大戦の傷は癒えたものの、日本の左腕はまだ肩より高く上がらなかった。力もとても弱い……が、それすら許さないと言わんばかりにアメリカは下から強く突き上げた。思考が再び快感に溶けてゆく。
「あっ……ん、あっ……ああっ……」
 啼き過ぎて掠れた声が日本の喉から零れた。クスッとアメリカが笑った。
「もう完全に俺を覚えたね、日本」
「……っ……!」
 さっと日本の頬が紅潮し、反射的に中を強く締めつけた。一瞬、アメリカは何かを堪える様に眉を寄せた。
「くっ……まだ、そんな力があるんだ……」
「は、んっ……」
「なら、もう少し……頑張るんだぞ、日本」
 そう言うや否や、アメリカは再び日本をシーツの上に押し倒した。不穏な気配に日本は慌てて言葉を絞り出した。
「ま、待って……!」
 しかし、それをアメリカは綺麗に無視した。腰で鋭く最奥を抉りながら、無防備な中心を片手で乱暴に扱く。
「はあ、あっ……!」
 身に余る刺激に日本の頬を涙が伝った。
 何時間も抱かれ続けた身体は既に限界で意識は眠りを求めているのに、埋め込まれた熱と手で無理やり欲を掻き立てられた。もうこれが快感かどうかさえ良くわからない……
「はっ……っ……」
 虚ろな表情で小刻みに痙攣する日本にアメリカは少し動きを止めた。
「どんな気分だい、日本……君を傷つけ、刀を奪った男にこうして抱かれるのは?」
 日本を疑っている訳ではなかった。紆余曲折はあったものの、今は大事な恋人と思ってはいる。ただ、心の底から信じることは出来なくて……いや、怖かった。国の化身にとって身体はあってないも同然だから。雌伏して刻(とき)を待つ間、それを勝者に与えているだけかもしれない。もし、そうだとしたら……
(家に誘われただけで有頂天になるほど君に溺れる俺を見て笑ってるのかい、日本……?)
 アメリカは胸に冷たい哀しみが込み上げてくるのを感じた。そして……酷く苛々した。
「もう答える力はないか……まあ、良いけど。今夜もたっぷり抱いてあげるよ、日本」
 すると、途切れ途切れに日本が言った。
「こうして、肌を……合わせて、いる……のに……っ……貴方は、まだ……あの頃に、縛られて……いるんですね……」
「……」
「これ、は……私の、意思です。それでは、まだ……んっ……足り、ませんか……?」
「……全然、足りないよ。俺達は国だから……きっと同じ場所で、違う夢を見てる。わかるんだ……俺が、そうだったから」
 空色の瞳にはっきり自嘲が浮かんだ。
「アメリカ、さん……」
 日本は深く息を吸って呼吸を整えた。長く言葉を紡ぐために……アメリカのそんな顔は見たくないから。
「でも、私達にも心があります。私が肌を許したのは……貴方だけです」
「……」
「ただ、人として……私は今、貴方に抱かれています。この心だけは、どうか信じて下さい……」
「……わからないよ、日本。だって、俺は国だから……心なんて、わからない……」
 アメリカの顔がくしゃっと泣きそうに歪んだ。日本は右手を上げて優しくアメリカの頬に添えた。
「なら、これから……その……する、ときは……菊、と呼んで下さい」
「菊……?」
 不思議そうにアメリカは言葉を繰り返した。それって確か花の名前だろう……?
「いえ、これは私の人としての名前です」
「……それは単なる言葉遊びだ」
 意図を察してアメリカは小さく首を横に振った。
「でも、私は国ではなく、人として……貴方に、抱かれたい。それだけで私の心は満たされて溢れた想いが貴方に降り注ぐ。そうしたら、きっと貴方にも心がわかります」
「日本……」
 アメリカは漆黒の瞳をじっと見つめた。そこに映る自分の顔には様々な思いが浮かんでいる。本当に、そうなんだろうか? 本当に、信じて良いんだろうか……?
「……君だけなんてずるいんだぞ」
 やがてポツリとアメリカは呟いた。
「何がですか……?」
「君だけ名前を呼んで貰うなんてずるいじゃないか」
「でも、私は貴方の名前を知ら――……」
「アルフレッド」
 アメリカは素早く言葉を遮った。頬にある日本の手を取って掌にそっと口づける。
「これから君も、ベッドの中では俺をそう呼ぶんだぞ……菊」
 その言葉に、菊は花が綻ぶ様に微笑んだ。
「……はい、アルフレッドさん」
 雪夜に交わした拙い約束、それは未だ破られることなく……
*    *    *

Information

Date:2016/02/14
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://annexecafe.blog.fc2.com/tb.php/80-31dc5dc1
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)